芸術と潜在意識 1:龍安寺の石庭を解明する①

 

=人物・用語説明=

* 今回、言説を参照する人物 *

笠原敏雄:小坂療法から出発し、ストレス・トラウマではなく患者本人の許容範囲以上の幸福が心因性症状の原因になっているという、幸福否定理論を提唱。”感情の演技”という方法で、患者を幸福への抵抗に直面させ乗り越えさせる、独自の心理療法を開発。また、日本を代表する超心理学者でもある。

グラツィエラ・マゲリーニ:イタリアの精神科医。フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ病院に運びこまれる外国人観光客の症状を記録し、スタンダール症候群と名付ける。

* 用語説明 *

反応:抵抗に直面した時に出現する一過性の症状。例えば勉強しようとすると眠くなる、頭痛がする、など。

抵抗:幸福否定理論で使う”抵抗”は通常の嫌な事に対する”抵抗”ではなく、許容範囲を超える幸福に対する抵抗という意味で使われている。

スタンダール症候群:イタリアのフィレンツェで、観光客が起こす発作的な心因性症状。芸術作品鑑賞中や歴史的な建築物などで起こす事が多い。フランスの小説家、スタンダールが同様の症状を発症したことからスタンダール症候群と名付けられる。

=はじめに=

当連載は、2017年~2018年にかけて、ウェブスペース En-Sophで連載した『芸術とスタンダール症候群』を加筆、修正したものです。内容的には、心理療法家の笠原敏雄先生が提唱する「幸福否定理論」の中級者クラスの”反応”を扱っています。

芸術作品の鑑賞時に出る症状については、既にイタリア、フィレンツェのグラツィエラ・マゲリーニ医師によって、報告がなされています。既に症状に名前がついている場合は、その名前を踏襲するため「スタンダール症候群」という症状名を題名に入れましたが、

* マゲリーニ医師のスタンダール症候群の解釈

症状‥‥思考障害、感情障害、パニック発作などの体性不安
症状の原因……芸術都市、フィレンツェという状況が自我を危機に陥れる。

* 幸福否定理論からみた芸術作品鑑賞時の症状の解釈

症状……様々な症状が出る。だるさ、頭痛、眩暈、アレルギー反応、記憶が消える、その他、マゲリーニ医師の挙げている症状も含む。
症状の原因……スタンダールが経験したものは、芸術作品の鑑賞に関する幸福否定の反応。

と、同じ症状に、含む範囲や解釈の違いがあり、「スタンダール症候群」という名前を踏襲すると、本連載の説明に矛盾が生じてくるため、途中から「芸術作品鑑賞時の反応(または症状)」に用語を統一し、改題して掲載する事に致しました。

また、2012年~2014年にかけて、『幸福否定の研究』という連載で、私自身が「幸福否定理論」に出会うまでの経緯と、心理療法を追試し、肯定的な結果を得た事を報告致しました。

当連載は、主に生活に関係する”生活圏”と、生活にはほとんど関係ない創造活動に関する”芸術圏”で分けるとするならば、”芸術圏”の幸福否定に焦点を当てた研究の一環の途中経過の報告という位置づけになります。

予定では、下記の順番で進めていこうと考えています。

① 龍安寺の石庭の配置を解明する
② スタンダール症候群の説明
③ 鑑賞時に”反応”が出る作品
④ ”反応”が出やすい条件
⑤ 芸術の本質とは何か?

(以下本文)

ー Φ(ファイ)は「数」ではなく「機能」である(『天空の蛇』/ジョン・アンソニー・ウエスト著 -

芸術とは何か?という研究を2011年以来続けていた私は、芸術的行為のいくつかの条件に気が付いていました。その条件は後述しますが、そのうちの一つ、数の機能的な側面について調べるために、昨年夏以来、エジプトのピラミッドや古代遺跡の本を数多く読んでいました。
古代遺跡は、装飾が少なくシンプルな為、長さや高さ、距離など比率に関する事に注目する事が多くなります。
古代遺跡同様に、有名な龍安寺の石庭も、石と石の距離のみが提示されているだけにも関わらず、深遠な魅力があり、昔から、何かの本質を捉えているのではないか?と興味がありました。(注1)
しかし、比率などは過去に色々な人が測っただろう、また、石のどこを基準にして測ればいいのかわからない、また、そもそも実寸がわからないという事で、特に具体的に測る事を試みた事はありませんでした。
興味はあるけど、手をつけていない状態だった龍安寺の石庭ですが、昨年、『謎深き庭 龍安寺石庭: 十五の石をめぐる五十五の推理』(細野透著)が出ているのを知り、購入し読んでみたのですが、結論としては恣意的な印象があり、龍安寺の石庭の謎が解けたという印象は全くありませんでした。
しかし、思わぬ方向で、この本が重要なきっかけを与えてくれる事になります。建築&住宅ジャーナリストの細野氏は、日本で飛鳥時代から使われてきた、曲尺という道具に注目します。辺が約1:2のL字型の物差しから、龍安寺の石庭は、この物差しの比率が使われたのではないか?と、推測したのです。
(図版引用:『謎深き庭 龍安寺石庭 十五の石をめぐる五十五の推理』/細野透著p40~41)
私自身は、この図を見たときに、確かにおさまりはいいが、どの石にも沿ってないではないか、これでは数度、角度をずらしても成り立ってしまう、と思いました。龍安寺の石庭の本質を解き明かしたとは言えないと感じたのです。
しかし、この本で『日本の庭園美 龍安寺』(監修 井上靖・千 宗室 /撮影 西川 孟』)に野村勘治氏による実測図がある事を知ることができたので、自分で本を取り寄せて比率を測ってみる事にしました。(次回へ続く)

注1
私事ですが、6歳から13歳まで大阪に住んでいたのもあり、子供の頃に龍安寺に数回行っています。はじめて訪れたのは小学生の低学年の頃だと思いますが、何か異様な感じと深遠な感じがしたのを覚えています。2011年以降は4回訪れています。

参考文献:
『謎深き庭 龍安寺石庭 十五の石をめぐる五十五の推理』/細野透著
『天空の蛇』/ ジョン・アンソニー・ウエスト著/ 

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