心理療法の目的
心理療法の進め方
2 感情の演技の内容を決めるために、1回1時間〜1時間半。
3 自分の許容量以上の進歩が起こると体調や症状が不安定になる事があります。
“好転の否定”いう状態で、一時的に症状が増える事があります。この時、症状出現の直前の記憶が消えている出来事を探る事により、早く不安定な状態から抜け出し、次の課題に取り組む事ができます。(1時間半)
幸福否定理論に基づく心理療法ができるまで
当院では、基本的には心理療法家の笠原敏雄先生が開発した心理療法を踏襲しています。
その中で、抵抗を“周辺部分の抵抗”と“核心部分の抵抗”に分け、核心部分の抵抗を中心に心理療法を行っていますが、
まずは笠原先生が心理療法を開発するまでの流れを、ごく簡単に解説します。
幸福否定理論とは
・笠原先生の考える人間の心の三層構造
(以下、引用図、テキスト共に『本心と抵抗』 P81~82)
私が考える人間の心の三層構造について簡単に解説しておきます。その考えかたに基づいて整理したほうが、いろいろな問題点がわかりやすくなるからです。私の考える心の構造は、次のように三層になっています。
―――――――――――――――
意識
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内心
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本心
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心の表層にあるのが私たちの意識です。ふだん感じている意識のことですから、これについては説明するまでもないでしょう。そのすぐ下には内心と呼ばれる層があります。これが幸福を否定する意志を持つ層です。さらにその下に本心と呼ばれる層があります。
本心には、素直な感情ばかりではなく、全知全能(注2)とも言うべき能力や崇高とも言える人格が潜んでいると、私は考えています。したがって、内心は、本心の表出を阻止しようとする強力な意志を持つ層ということになります。この内心と本心は精神分析をはじめとする無意識理論の概念とは根本から違いますので、混同しないように注意してください。
人間の心が、本当のところどのような構造になっているのかはわかりません。ここではとりあえず、このような三層になっていて、内心は本心を否定するという目的を持っており、意識は、内心と本心の両方を隠すための覆いのようになっていると考えておけばよいでしょう。幸福を否定しようとする強い意志は、育てられかたや周囲からのストレスなどの環境的要因とは無関係に存在するもののようです。つまり、一般に言われるように、幼児期の虐待やそれによる”トラウマ”などによって発生するものではないということです。
そうすると、では幸福否定という奇妙な心の動きがなぜあるのか、という疑問が出てきます。もちろんその理由はよくわかりませんが、万人にあるらしいことから考えても、個人が置かれた環境などの小さな要因によるものではなく、生命の進化の中に位置づけるべき根源的現象のように思います。
私が、「自虐性を薄くする」と表現している事は、笠原氏の心のモデルで表現すると、内心の力を弱める、という事になります。抵抗に直面すること自体が治療となり、内心の力を弱めた結果として患者の人格面の問題が改善し、必然的に心因性疾患が改善するという事になります。
フロイト~現代の精神医療の流れと問題点
オーストリアの精神科医、ジーグムント・フロイトは催眠療法を主体とした治療を行っていました。(後に催眠は放棄し、覚醒した状態で治療)
その過程で、患者が催眠中に抑圧していた記憶を思い出すと、症状が改善される、という経験をし、ヒステリー(現在の解離性障害)や神経症の原因は、幼少期のトラウマを”無意識”に抑圧する事である、としました。
フロイトが言う“無意識”とは、意識に対して、抑圧されて思い出せない記憶がある領域という事になります。
フロイトの問題点としては、
・追試不可能
・理論の間違い
・現在では、フロイトの治療法は有効とみなされておらず、使われていない
という点が挙げられています。
現在のストレス、トラウマが精神疾患や心因性症状の原因という理論の基盤になっていますが、現代の精神医学の診断自体が、
・推論を重ねている
・女性解放運動という政治的な側面が、精神医学の診断に影響を与えている
という問題点があります。
例えば、よりストレスの大きい発展途上国より、先進国のほうが心因性疾患が多いのはなぜか?また、日本においては第二次世界大戦中や戦後のほうが、現代よりストレス、トラウマは大きいはずだが、心因性疾患は現代のほうが圧倒的に増えているのはなぜか?という根本的な問題に答えられない、という問題点があります。
このような流れを踏まえて、精神医学が発展してきたため、本当の意味で有効な心理療法は発展しておらず、投薬治療による症状軽減に頼っているのが現在の状況という事になります。
また、投薬治療が主流になっている事から、「脳が心を生み出している」という理論を前提とし、心(意識)は脳の活動の産物という事になっています。
当院では、症状軽減の効果がある領域についての投薬治療を否定するつもりはありません。
実際に多くの患者さんが、投薬治療を受けながら、心理療法を行っています。
但し、一部の症状に投薬治療が有効という事と、心(意識)は脳の活動の産物と結論付ける事に関しては、小坂療法、心理療法家の笠原敏雄先生の心理療法の追試の結果をもとに、間違いであると判断しています。
小坂療法
1970年代に精神科医の小坂英世先生が開発した心理療法です。
・精神分裂病患者の症状直前の記憶が消えている
・その記憶を思い出させると、症状が軽減、消失(症状発症の直前の出来事を探る際に出る症状を“反応”と呼ぶ)
以上の手続きを繰り返し、患者が一時的に、学校に通えるようになる、仕事ができるようになる、など改善ましたが、小坂医師がイヤラシイ再発と呼ぶ、症状消失の代わりに、人格面の問題点が浮き彫りになる状態が出現し、社会性の獲得までは至っていません。
但し、
・症状発症の記憶が消えている直前の出来事を指摘する
と、手続きがはっきりしているため、追試可能な科学的方法という点で革命的であったと言えます。
また、後に心理療法家の笠原敏雄先生が言及する事になりますが、症状発症の直前の記憶が消えている出来事を指摘するだけで、症状が解消する事から、
・心(意識)は脳の活動の副産物ではなく、独立して存在する。
・ストレス、トラウマなどの環境ではなく、自分自身(の無意識)で症状の操作をしている
という点がはっきりするようになった事も、精神医学にとっては革命的な事と言えます。
小坂医師は、当初は患者の家庭環境を重視していましたが、次第に患者本人の責任を重視するようになりました。しかし、その段階で患者の離反が相次ぎ、小坂医師自身も小坂療法を放棄し、漢方医に転身してしまいます。
笠原敏雄先生の心理療法及び幸福否定理論
小坂療法の追試を行い、
・症状発症の直前の記憶が消えている
という点を、精神分裂病に限らず、他の心因性症状についても確認を行いました。
その結果、
・他の心因性症状においても、症状発症の直前の記憶が消えている
・その記憶を思い出させると、症状が軽減するが、精神分裂病ほどではない。
また、
・症状発症の原因は、ストレスやトラウマではなく、本人の許容範囲を超える幸福感を感じさせる出来事である
小坂療法の追試、その後の試行錯誤を踏まえ、
・症状出現の直前の記憶が消えている出来事を探る
・”反応”という指標を利用し、抵抗に主体的に直面させる
という二点の原則のみを利用し、実証的に発展させた心理療法です。
具体的には、上記の内心の力を弱める(抵抗に直面する)事を目的とし、感情の演技という方法を中心にした心理療法を行っています。
他の心理療法にはない、統合失調症や難治性の心因性疾患の根本改善の症例があります。また、症状出現の原因は、ストレス、トラウマではなく、「本人の許容範囲を超える幸福感」としています。
心の研究室での心理療法の進め方については、症状が強い時には、症状発症の原因の出来事を探り、症状の軽減を目的とした手続きを行っていましたが、基本的には、強い反応が出る対象を選び、抵抗に直面し、幸福を否定する力(上記内心の力)を弱めれば改善する、というやり方をしていました。(紹介した知人、身内などから聞いた範囲での話と、私自身の13年間のクライアントとしての経験より)
“幸福”の内容については、
“私は、幸福の内容自体を限定したことはありません。幸福感は自らの進歩につながる感情であることを、ベルクソンの指摘に従って述べていることに加えて、各人が否定している内容が、少なくともその時点で本人の幸福感を呼びさますはずのものだと言っているだけです。ですから、幸福の内容には多少なりとも個人差がありますし、同じ人でも、進歩するに従ってもその内容も大なり小なり変わってきます。さらには、文化圏や時代背景によっても社会的な階層によっても相当に違ってくるでしょう。
(引用:心の研究室 レビューの検討 3 『幸せを拒む病』,)
と述べています。
参考文献:
『なぜあの人は懲りないのか 困らないのか』 /笠原敏雄著
『幸福否定の構造』 / 笠原敏雄著
『本心と抵抗』 / 笠原敏雄著
当院の心理療法について
当院では、笠原敏雄先生が運営する心の研究室の方法で10年以上追試を行い、笠原先生の幸福否定理論と”抵抗に直面し、抵抗の力(自滅的な力)を弱めれば、統合失調症などの重度の精神疾患を含め根本改善する”、という理論を肯定する結果を得ました。
また、心の研究室では、心理療法の指導を行っているわけではなく、クライアントとして心理療法の時間内で勉強するということなら受け付ける、という方針があったため、2006年~2019年まで、私自身が月に1~2回のペースで、クライアントとして、心理療法を実践しました。(”抵抗に直面する”という経験をしないと理解できない部分があるため、ある程度は納得していましたが、治療者とクライアントという立場を変える事はない、という方針には違和感がありました。しかし、どのように受け入れるかは先方が決める事なので、立場よりも事実が解れば良いという事で、承諾していました。)
自分自身の反応の観察や、患者さんへ心理療法を行う過程で、“全てが症状を解決すれば疾患が治るわけではない”、”症状自体がより深い部分の抵抗から逸らすために出ている”、という症例も観察する事ができました。
*抵抗の多重構造とは
笠原先生は、地続きになっている、という意味で“抵抗は一つ”と考えています。従って、「抵抗の力を弱める」という目的での自宅での課題においては、内容よりも、心理療法内で最も抵抗が強かった課題をやるように指示がありました。私自身は抵抗は地続きになっているという意味では一つであるが、ある程度の段階に分かれていると考えています。
例えば、解離性障害、自閉症、統合失調症の患者さんも、うつ症状、パニック発作、神経症症状を発症する事がありますが、これらは周辺部分に該当し、核心部分は解離性障害であれば、“もう一人の自分をつくって対応する”、自閉症であれば、“自己を、外の世界や自分の内側の感情、感覚から逸らす。”、統合失調症であれば、“現実の世界の否定”という、いわゆる中核症状と呼ばれる部分になります。
10年間の追試の結果、患者さんが症状の改善を中心とし、生活しやすくなる周辺部分の抵抗は積極的に乗り越えようとするものの、(例えば、そこから自立を目指すなどの)核心部分になると、途端に抵抗に直面する課題をやらなくなってしまい、心理療法の進み方が極端に遅くなる例を経験しました。そのため、
・周辺部分の抵抗
・核心部分の抵抗
と区別し、核心部分の抵抗を何とか突破できないか?という研究を進める事になります。
現段階では、核心部分の抵抗を、
・対象疾患に共通している抵抗であること
・その部分の抵抗が弱くなれば、他の問題も解決に向かうという対象
という暫定的な定義づけをしています。
=核心部分の抵抗が隠れている例=
ケース1:統合失調症により、慢性的なうつ症状で10年以上、休職を繰り返している。気功療法でうつ状態がなくなり、患者本人も喜んで復職。復職後、数か月でカギの紛失(すぐに見つかる)をきっかけに退職。
周辺部分の症状は“うつ症状”。核心部分の抵抗は“責任”を伴う事に、非常に抵抗が強い事。責任を避けるためにうつ状態を繰り返し、”何かを任される”という事がない状態をつくり、会社勤めを続けていた。
ケース2:脳脊髄液減少症(むちうちの後遺症の症状)の学生。授業中に身体を保持していられない、頭痛、吐き気などの症状で母親が付き添い通学。
自立に問題がある事がすぐに判明し、心理療法を開始し、素早く改善し、登校日数が増える。改善が早すぎたため、違和感を感じ、調べた所、もう一人の自分を作り上げて、現実感を薄くして登校するテクニックを使いだしていた。
統合失調症、解離性障害、自閉症、発達障碍、パーソナリティ障害の患者は、この手のテクニックを使い、改善しているように見えてしまう事がある。
周辺部分の症状:もっとも表面的な症状は頭痛、吐き気など。
核心部分の抵抗:自立に対する抵抗。更に奥に、自分自身の本当の感情、感覚を使わず、もう一人の自分で対応。現実の世界を避けるという問題がある。
第一段階・・・本人の自覚症状と問題点が一致している
例:仕事が長続きしないので困っている
第二段階・・・本人の自覚症状と本当の問題点が違っている
例:脳脊髄液減少症(むちうちなどの事故で髄液漏れを起こす症状)で、頭痛、吐き気があり、日常生活ができない。特に事故はなく、調べてみると実態は登校拒否、出社拒否、家族の問題など。
例:パニック発作に悩んでおり、就職できないと訴える。パニック発作は改善したが、仕事に就かない、など。
第三段階・・・主体性の問題
周辺部分の抵抗に関しては、積極的に心理療法の課題に取り組むクライアントが多いが、核心部分の抵抗になると、ほとんどのクライアントが主体的に課題に取り組む事ができなくなる。
第四段階・・・患者自身の操作による無自覚
症状発症の直前の出来事は、記憶を消してしまうため、どの段階のクライアントでも自覚していない。それとは別に、“自身の感情、感覚を抑え込む、消す”、“仮の自分をつくりあげて対応する”など、現実逃避や責任逃れを背景とし、自ら慢性的な無自覚をつくりあげている状態。発達障碍、解離性障害、統合失調症などに見られる。
自閉症、知的障害の患者さんでは、楽しい時に強い不安感が出てきたり、全く違う感情が出てしまうという症状がある。(この点については、脳の異常ではなく、幸福否定である事を確認している。)
普通の社会生活ができている人については、いわゆる思考停止という問題がある。明らかに不自然な無自覚症状の一例を挙げると、大半の人が“お金を稼ぐ事に人生の大半の時間を使いながら、お金が何か?(誰がどうやって創り出しているのか?)を知らない、考えた事もない”、という例がある。
と分類しています。
当院では、便宜上、第一段階と分類した、“クライアントが困っている症状と問題解決が直結している場合”、また、第二段階と分類した、クライアントが軽減させたい症状と、解決の方向に向かう問題点が違うを事を、クライアントが(しぶしぶ)認めた場合、心の研究室の方法をそのまま踏襲し、心理療法を行っています。
但し、抵抗が多重構造になっており、第4段階の”無自覚”の症状があると判断した場合には、“無自覚”(第4段階)の治療を行います。
笠原先生の心理療法の追試をはじめた当初は、比較的重い精神疾患のクライアントが、高度な心理的操作を行っているという事を理解していませんでした。
何年も心理療法を行ってから、クライアント本人から、“普段から感情を感じないように操作している。心理療法の時もそのようにして受けている”、“心理療法の時には、心理療法用の自分で対応する”と聞いて、唖然としたという経験があります。
このような場合は、
・本来の自分自身で心理療法を行う(心理療法用の自分を使わない)
・本来の自分自身の感情、感覚で心理療法を行う(感情や感覚を感じないように操作しない)
という、当たり前と思われる前提からつくらなければいけませんが、現実的には、このような操作をして心理療法を受けているクライアントの割合が多いと判断しています。
その段階の治療になると、
・感情の演技で確認しても、多くの場合、クライアントの無意識の操作により、反応が出ていないように見える。実際は、実感をつくる作業を全くやっていない、他の事を考える、何をやっているのかわからなくなる、などの反応が出るため、外から確認できない。
・説明を繰り返し、クライアントが納得しても、次の回の心理療法になると内容をほぼ忘れている。
・本題に入らないように、全く関係のない話を続ける。
・好転の否定において、だるさ、入眠困難(寝付きが悪い、あるいは生活が不規則になる)など、どこから症状が始まったのかわからない症状を選択するため、“症状発症の記憶が消えている直前の出来事を探る”という手続きができない。
・反応の不明瞭化(反応が出たり出なかったり)を起こす。
また、ある程度、核心部分の抵抗、特に“無自覚”の抵抗に直面すると、
・通常は感情の演技をやり始めてから3か月~半年したら、好転の否定が起こるが、核心部分に関しては、早ければ心理療法当日から症状が出る。
・入眠困難、だるさ、気力が出ない、風邪のような症状、などが多い。
という傾向があります。(確認した人数が少ないので、現段階では暫定的な観察経過となります。)
反応を指標として、抵抗に直面させるという心理療法の原則から考えると、
・心の研究室の心理療法は、強い反応が出る対象を探し、抵抗を弱めていく
・当院での心理療法は、上述の第四段階の問題が見つかった場合には、不自然に反応が出ない対象を探し、反応が出る段階まで持っていく