『人間性の否定と虚構の世界』-4 第1部 HIVウイルスとエイズに関する疑惑②

* 用語説明 *

幸福否定理論:心理療法家の笠原敏雄先生が提唱。心因性症状は、自らの幸福や進歩を否定するためにつくられるという説。娯楽は難なくできるのに、自らの成長を伴う勉強や創造活動に取り組もうとすると、眠気、他の事をやりたくなる、だるさ、その他心因性症状が出現して進歩を妨げる。このような仕組みが特定の人ではなく人類にあまねく存在するという。

抵抗:幸福否定理論で使う”抵抗”は通常の嫌な事に対する”抵抗”ではなく、許容範囲を超える幸福、自らの成長・進歩に対する抵抗という意味で使われている。

反応:抵抗に直面した時に出現する一過性の症状。例えば勉強しようとすると眠くなる、頭痛がする、など

* 主要人物 *

アンソニー・ファウチ博士・・・NIAID/国立アレルギー研究所所長

ロバート・ギャロ博士・・・HIVウイルスがエイズを引き起こすという主張の中心人物。(HIVウイルス発見者とされていたが、モンタニエ博士が送ったサンプルが混入されていたとの見解がある。)

リュック・モンタニエ博士・・・HIVウイルスの発見者。2008年にノーベル生理学・医学賞を受賞。キャリー・マリス博士・・・PCR法を開発し、1993年にノーベル化学賞を受賞。

ロバート・ケネディJR・・・政治家。弁護士。JFケネディの甥、ロバート・ケネディの息子。環境問題やワクチン問題の訴訟に関わる。ピーター・デューズバーグ博士・・・がん遺伝子の分野における著名な研究者。HIVウイルスだけがエイズの原因とは言えないと主張。

前回は、ロバート・ケネディJR氏の著書を参考にしながら、HIVウイルスの発見に関わった、ロバート・ギャロ博士とリュック・モンタニエ博士が、HIVウイルスとエイズをどのように関連付けているのかを検証しました。

本稿では、キャリー・マリス博士の著書『マリス博士の奇想天外な人生』(福岡伸一訳)から、科学者の倫理的な問題点を検証してみたいと思います。



=キャリー・マリス博士の主張=

当時、マリス博士は資金提供者に向けて、PCR検査でレトロウイルスを検出する方法を開発する計画の、経過報告書を書いていました。

私はスペシャル・ラボ社のウイルス学者に、HIVがエイズの原因である、という記述の根拠となる論文を引用しておきたいのだが、それはどこにあるのか?と聞いてみた。「そんな論文は必要ないよ」彼は言った。「それは常識だから」「いや、そうは言っても根拠とした論文を提示しておきたいんだ」(中略)「どうしてもというなら、CDC(筆者注:アメリカ疾病予防管理センター)週報を引用しておけばいいよ」と彼は言った。(中略)私はそれを読んでみた。(中略)週報でも、情報のソースとなるもともとの論文は明示されていなかったが、私はもはや驚きはしなかった。(引用:『マリス博士の奇想天外な人生』/p255~256 キャリーマリス著 福岡伸一訳)


私はコンピュータで検索を行ってみた。しかし、モンタニエもギャロも、あるいは他の誰も、HIVがエイズを引き起こすという結論に至った実験について記した論文を公表していなかった。彼らの名前をエイズ研究者として有名にしたサイエンス誌の論文を読んだが、彼らがそこで述べていたのは、何人かのエイズ患者に、過去にHIVに感染した証拠が見つかったという事に過ぎなかった。彼らはHIVに対する抗体を見つけたのである。ウイルスに対する抗体はつねに過去の病気の痕跡であって、現在の病気の原因かどうかは分からない。抗体はウイルスが身体の免疫系に敗れたというしるしである。患者は自分自身で守ったのである。論文はどれも、HIVがエイズを引き起こすということを示してはいなかった。HIV抗体をもつ人が誰でもその病気になるとも示されていなかった。事実、彼らは抗体をもつのに健康な人を何人も見つけたのだ。もし、モンタニエやギャロがエイズの原因を見つけていないのなら、彼らが公表した発見とはいったいなんなのであろうか。(引用:『マリス博士の奇想天外な人生』p258)


これまでに私は数えきれない研究集会でPCRについて講演した。そこには、必ずHIVの研究者が参加していた。私は彼らに、HIVがエイズの原因であることは、いったいどのようにして分かったのかと尋ねてみた。するとみんなが、何かしらの論文に言及した。そして、それは自宅にあるとか、職場のファイルの中にあると言った。誰もが当然のことのように語り、帰ったらすぐにその論文を送りましょう、と言ってくれた。しかし、私は、今までいかなる論文も入手できていない。エイズがHIVによって引き起こされることを証明した論文を私に送ってくれた人は一人もいなかった。あるときついに、モンタニエ博士自身にその根拠を尋ねる機会がきた。それは彼がサンディエゴのUCSDエイズ研究センターの大々的な開所式で講演したときであった。(中略)これは私が冷静にこの質問をする最後の機会になった。その返答でモンタニエ博士は次のように言った。「CDCレポートを見たらよいでしょう」私は次のように言った。「読みました。けれど、それはHIVが確実にエイズの原因かどうかという問題に焦点を当てたものではありませんでしたよ。」結局、彼は私に同意した。きつねにつままれたような気がするとともに、怒りがこみあげてきた。モンタニエですら知らないことを、いったい誰が知っているというのだろう。(引用:『マリス博士の奇想天外な人生』/ p259~260)ある晩、私はバークレーからラホイヤの自宅まで車をとばしていた。するとNPRラジオでバークレーの著名なウイルス学者であるピーター・デューズバーグが対談をしているのが耳に入ってきた。そのとき私は、HIVとエイズの関連を示した論文を見つけられずに苦労している理由がなぜかをついに知った。そんなものはどこにもないとデューズバーグは言っていた。つまり、HIVがエイズを引き起こすと証明した人は、いまだかつてはいないのだ。(引用:『マリス博士の奇想天外な人生』/ p260)

以上がウイルスの検出方法の専門家であるマリス博士が、HIVウイルスがエイズを引き起こすという学説の根拠となる論文を探した時に、直面した科学者達の態度に関する文章になります。

次に、マリス博士はデューズバーグ博士が著名はウイルスの研究者であった事、ウイルスががんを引き起こすと考えていた事、その研究には多額の資金が投じられたが、自説の誤りに気が付いた事に言及し、その時の研究者の態度について以下のように述べています。

デューズバーグは自分の名誉に満足せず、逆に自分の名誉をないがしろにする行動に出た。彼は自分自身の理論に誤りを見つけ、それを証明する事に取り組んでいった。驚いた研究仲間たちは、そんなことはないと反論した。しかし、本当にガンを治したのなら、ガン・ウイルス説を破棄し、研究は別の方向に向けられるべきであった。ところが研究者はガン治療をめざすどころか、誤ったウイルス説を信望して無駄な研究を10年間も続けたのだ。保身からか、あるいは自分の誤りに気づかなかったのかは分からない。彼らは実験を継続し、研究がうまくはかどらないことに対して不満がたまっていた。そして、自分たちの愚考は棚にあげて、デューズバーグを非難した。彼らのほとんどは、私の言うサイエンスの意味がわかっていない。彼らは政府から助成金を得るための訓練だけはされている。(以下略)(引用:『マリス博士の奇想天外な人生』/ p261~262)」

デューズバーグ博士の態度と、周辺の研究者の態度が真逆である事に言及した後に、「ウイルスががんの原因である」という説に従い、研究をしていた科学者が、一斉にHIVウイルスとエイズの研究に鞍替えをした事が書かれています。

マリス博士は、HIVウイルスがエイズの原因という証拠がない、という主張の後、エイズの診断がどのようになされるかについて言及しています。

CDCはHIVに対する抗体を検出する検査で、陽性の結果に伴う30以上の症例がエイズであると定義した。しかし、同じ症例でも、抗体が検出されない場合、エイズとはみなされない。たとえば、もしHIV陽性の女性が子宮ガンになると、彼女は患ったとみなされる。しかし、もし彼女がHIV陽性でないのなら、彼女は単なる子宮ガンである。HIV陽性で結核を患った男性はエイズであるが、もし彼が陰性なら単なる結核だ。ケニアやコロンビアの住民は、HIV抗体に対する検査があまりに高価なので、症状さえあれば、HIV陽性とみなされ、エイズと診断される。(p266)CDCはエイズの定義を拡大し、新しい症例を加えつづけている。CDCは意図的に統計を操作して、まるでこの病気が広がり続けているように見せかけているといってもよい。例えば。1993年、CDCはエイズの定義をとても大きく広げた。(中略)当局が新たにエイズ患者を一人報告するにつき、連邦政府から各年度ごとに2500ドルをもらえるのである。これがライアン・ホワイト法である。(引用:『マリス博士の奇想天外な人生』 p277)


以上が、キャリー・マリス博士の主張になります。

その後、「地球が太陽のまわりを回っている」と主張して自宅軟禁の刑に処せられた、ガリレオの例を挙げながら、

世界中で実践されている科学のうち、大部分は本当の科学とは言えない。われわれが現在科学と呼んでいるものはおそらく、1634年に科学と呼ばれていたものと非常によく似ている。ガリレオは、自分の信念を撤回するか、さもなくば破門すると宣告された。エイズ研究を支配する層の考え方を拒む人々も、また基本的に同じ事を言われるのだ。「もしわれわれの言うことを受け入れないのなら、おまえは追放だ」と。(p268)

と、現代の科学の世界がガリレオの時代と変わらない事を述べています。要点をまとめると・HIVウイルスがエイズの原因という証拠を提示している論文は存在しない。エイズの原因として、HIVウイルスを発見したギャロ博士、モンタニエ博士もそのような論文を発表していない。・科学の研究ではなく、権威によって、HIVウイルスとエイズの相関関係を利用し、HIVウイルスをエイズの原因と断定している。・CDCがエイズ患者を意図的に増やしている。・現代の科学の世界において、大半は本当の科学とは言えない。(事実に基づく研究や理論の積み重ねがされていない。)

という主張になります。

マリス博士は、多くの科学者がお金や利権、権威に屈していると考えているようですが、私自身は、大半の科学者が「事実検証が最も重要な責務」という事について、認識すらできていない事、具体的にはデューズバーグ博士を非難した科学者の態度が、科学の世界でも一般的な社会でも普遍的に観察できる事に基づいて、幸福否定理論で言う抵抗が原因で、結果として権威に従属する事になる、と考えています。



=主要人物の主張の変化=

2024年現在、HIVウイルスがエイズの原因であるという、いわば政治的なコンセンサスが得られてから、約40年が経過しています。

前稿や本稿で扱った、1980年代~90年代にかけての主要人物がそれぞれ主張していた時代の科学的なエビデンスの量と、現在を比較すると、積み重なっている論文の量が圧倒的に違います(ロバート・ケネディJR氏の著書によると、約5万本)。そのため、現在において、それぞれの主要人物の主張が変わっているかどうかを確認する必要があります。

アンソニー・ファウチ博士・・・主に政治的な主導を行っているため、現在でも「HIVウイルスがエイズの原因である」という主張は変えていない。

ロバート・ギャロ博士・・・HIVウイルスがエイズの原因であるという立場は変えていないが、1986年にヒトヘルペスウイルス(HHV-6)をエイズ患者や慢性疲労症候群の患者から検出した、と発表。1994年の論文「Human herpesvirus 6 ㏌ AIDS」においても、「HHV-6は免疫系の主要な細胞に感染し、殺す能力があるため、HIV感染を加速させる因子として働く可能性がある」と発表。(参考:『人類を裏切った男(中)』/p291)

リュック・モンタニエ博士・・・表向きは、HIVウイルスがエイズの原因であるとの立場を続けるが、本人の著書や周辺の証言によると、1980年代からエイズの唯一の原因がHIVウイルスとの主張はしていない。晩年は、西洋医学、投薬、対処療法から離れ、自然治癒力を高める代替医療に傾倒しており、外部から侵入するウイルスよりも、ウイルス感染しながら発症しない宿主の身体の状態に関心が移ったと推察できる。

キャリー・マリス博士・・・2019年に死去したが、HIVウイルスはエイズの原因ではない、という主張は変えていない。同時に、PCR検査をウイルス検出に安易に使うべきではない、と主張している。

ピーター・デューズバーグ博士・・・HIVウイルスはエイズの原因ではない、という主張は変えていない。薬物、治療薬などエイズ(後天性免疫不全)を起こす原因を提示しながら、アフリカの人口の推移からHIVウイルスは危険ではないと主張している。(参考:「AIDS  since  1984 no evidence for a new viral epidemic–not even ㏌ Africa」/Duesberg Lab)

以上が、1980年代から現在までの主要人物の主張の変化になります。デューズバーグ博士は、南アフリカでは、2000年~2005年の間に実質的に年間、約1万人しかエイズで死亡していないとしています。しかし、別の資料では、年間20万人強の死亡数になっています。

エイズの適用範囲を狭義にするか、広義にするかで、これだけ差が出てしまうので、部外者が年間死亡数で検証するのは難しいと言えます。


=南アフリカの人口推移=

次に、一時期は成人の4分の1がHIVウイルスに感染していたとの説もある、南アフリカの1980年~2024年までの人口推移を見てみたいと思います。(グラフ筆者作成)

出典 IMF – World Economic Outlook Databases

出生率は1960年に約6人、1980年に約4.8人、2000年以降は2.3~2.4人に下がり、2024年まで横ばいを続けています。

私個人の見解としては、

・ギャロ博士、モンタニエ博士の主張には矛盾が見られる反面、マリス博士、デューズバーグ博士の主張には一貫性がある。・南アフリカの人口推移から、国民の2割に近い人口が、死亡を免れず、母子感染する感染症に羅漢したとは判断しにくい。

と、考えています。



=どのような原因で免疫不全が引き起こされるのか?=

以上、HIVウイルスとエイズ(後天性免疫不全)に関する疑惑について書いてきましたが、HIVウイルスとエイズの関係に不自然な点があっても、エイズが存在しないというわけではありません。

一時期、慢性疲労症候群とエイズは同じ病気ではないか?と科学の世界でも言われていたようですが、免疫が正常に働かない状態であるエイズをはっきり定義する事が難しいという側面もあります。

免疫不全の原因は単一ではありませんが、まずデューズバーグ博士の主張から見ていきたいと思います。



=デューズバーグ博士のエイズの原因に関する主張=


デューズバーグと彼に続く多くの研究者たちは、ゲイの男性や薬物中毒者が過量に娯楽用麻薬を使用したのが、第一世代のエイズ患者に見られる免疫不全の真の原因だとするエビデンスを提示した。彼らは、エイズの初期症状であるカボジ肉腫とカリ二肺炎(PCP)は、共に亜硝酸アミル(通用名「ホッパー」)、好色なゲイの間で人気の薬物)と強い関連があると主張した。(引用:『人類を裏切った男』(中)/p265)
また、上記の主張が書かれている、1992年に発表された論文『The role of drugs in the origin of AIDS』では、エイズの治療薬のアジドチミジン(AZT)が白血球減少などを引き起こし、エイズの症状が薬物と治療薬の副作用に相関があるという主張もなされています。

確認のため、筆者がAZT(商品名、レトロビル)の副作用を調べた所、赤血球障害、白血球減少、消化管障害などが2割前後の患者で起こっている事が記載されていました。当時は、現在の約3倍の量が投与されていたので、多数の患者に赤血球障害、白血球減少が起こっても不思議ではありません。

また、AZTの作用機序を調べた所、「本剤はHIVの逆転写酵素と競合しDNAに取り込まれた後、DNA鎖の伸長を停止することで逆転写酵素の活性を阻害する」(引用:日経メディカル 処方薬辞典 核酸系逆転写酵素阻害薬(抗HIV薬)の解説)と記載されています。

私自身、専門的な事に詳しいわけではないのですが、少なくともDNAに取り込まれ、作用する薬である事は間違いがないようです。

次に、状況証拠による相関関係になりますが、米国でのAZTを服用したエイズ患者の生存期間に関する記述を見てみたいと思います。

1980年代後期には、HHS(筆者注:アメリカ合衆国保健福祉省)のアジドチミジンは1日あたり1500ミリグラムだった。アジドチミジンを服用した患者の平均生存期間は1988年には4カ月だった。主流派の医学でさえ、より高用量の投与が非常に高い死亡率につながっている事実を看過できなくなった。1990年代に入って、HHSは1日あたりの投与量を500ミリグラムに引き下げた。1997年にはアジドチミジンを接種した患者の平均寿命は24カ月に延び、エイズによる死亡が激減した。(引用:『人類を裏切った男』(中)p262)

つまり、HIVウイルスではなく、薬物中毒や処方された薬によってエイズが引き起こされたとの主張になります。

実際に薬剤が慢性的な免疫疾患を引き起こす事があるのでしょうか?

次稿では、HIVウイルスから離れ、化学物質で引き起こされた免疫不全について検証してみたいと思います。

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