「お金・相場に関する幸福否定 6:相場における異常行動・心因性症状-1
* 用語説明 *
幸福否定理論:心理療法家の笠原敏雄先生が提唱。心因性症状は、自らの幸福や進歩を否定するためにつくられるという説。娯楽は難なくできるのに、自らの成長を伴う勉強や創造活動に取り組もうとすると、眠気、他の事をやりたくなる、だるさ、その他心因性症状が出現して進歩を妨げる。このような仕組みが特定の人ではなく人類にあまねく存在するという。
抵抗:幸福否定理論で使う”抵抗”は通常の嫌な事に対する”抵抗”ではなく、許容範囲を超える幸福、自らの成長・進歩に対する抵抗という意味で使われている。
反応:抵抗に直面した時に出現する一過性の症状。例えば勉強しようとすると眠くなる、頭痛がする、など。
①相場において、観察できる異常行動(不合理、自滅的な行動)は、脳の作用ではなく、「幸福否定理論」で言う反応であり心因性症状である。
②相場における反応の原因は、お金儲け以外の側面に主な原因がある。
“私は脳の中の二つのシステムをシステム1、システム2と呼ぶことにしたい。(中略)
・「システム1」は自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。(筆者注:経験や直観で判断し、深く考えないで判断するケースのこと)
・「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしまるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連つけられることが多い。”(筆者注:考えて判断するケースのこと)(『ファスト&スロー』(上)/ダニエル・カーネマン著,2014,p41)
①自分が成功したルールが通用しなくなる。
②損失を取り返そうと、ポジションを増やし、損失を膨らませる。(精神的には、失敗を認めない状態)
③損失を取り戻そうとするため、自分が理解していない、他の投資法に投機的に手を出す。(根拠がない売買をやっているため、祈っているような状態)
④更に損失を拡大する
・あるお店で成功
・店舗拡大
・流行りが廃れて、全店舗で売り上げ減少
・他の流行りに手を出して、失敗
・金融の知識がないために、相対的に自分の財産が減っているのに、根拠なく相場の勉強を否定する人
・相場の勉強に取り組めない
・相場をやってもうまくいかない
①最低限の知識についての勉強ができない
具体的な例としては、
・利回りの目安(複利)
・資金配分
・勝っている人の割合
・チャート(ロウソク足)の読み方
など、基本的な事柄の勉強をしようとすると、娯楽に逸れるという逃避行動や、だるさ、眠気、頭痛などが出るという人がいます。
②自分のやり方を確立できない
ある程度、資金管理を勉強ができ、チャートの基礎的な見方もわかるようになると、”自分のやり方を確立する”という段階に入ります。
これは、やる事を決めるという側面もありますが、手を出さない事を決めるという作業にもなります。
・自分自身の適正を探る
・世の中の仕組みを知る(事実を知る)
・異種の事物の関係性を探求
という内容になるので、創造的な活動も含む事になります。
③自分のやり方を確立しても、その通りに行動できない
代表的な例としては、
“ポジりたい病(ポジポジ病)”と呼ばれる不合理な行動があります。これは、自分自身が購入するタイミングではないのに、ルールに反してポジションをとってしまう現象です。
エントリー(何かしらを買う、売る)、利食い、損切り全てにおいて、ルールに反した行動をとってしまうという現象が見られます。
④自分のやり方通りにポジションを取っても、精神的に不安定になる。やめてしまう。
この点に関しても、長期に渡って利益を出し続ける人は、売買の勝ち負けに一喜一憂しないという特徴があるようです。自分の資産が増えたり減ったりする中で、喜んだり、落ち込んだりしないというのは、ある意味不自然という事になります。
仮に利益が出ていたとしても、疲れ果ててしまう人もいますし、緊張状態(これ自体が反応)から解放されたくて、ポジションを切ってしまう事もあるでしょう。
⑤自分のやり方を確立し、その通りに行動し、成功した後、ルールが通用しなくなり資金をなくしてしまう。
この点については、上述したように、相場だけではなく、経営、スポーツチームの戦略、国家戦略など、様々な分野において、観察できる現象だと考えています。
単なる”失敗”とは違い、”成功の終焉”という観点のほうが正確に検証できると思いますが、相場と経営や国家戦略は、
・経営や国家戦略は集団(社員や国民)の同意が必要なので、方針転換がし辛い。(逆に、スポーツチームなどは、現在うまくいっている戦略が通用しなくなる事が想定されているため、監督の交代という形で方針転換がしやすい。)
・相場は単独であるため、他者との関係はないが、サイクルが早い事と、レバレッジの問題があるため、歯止めが効かないという問題が起きやすい。
という違いがあります。
注1:
“本書で私が目指すのは、認知心理学と社会心理学の新たな発展を踏まえて、脳の働きが今日どのように捉えられているかを紹介することである。この分野のとくに重要な進歩の一つとして、直観的思考の驚嘆すべき点とともに、その欠陥が明らかになってきたことが挙げられる。(引用:『ファスト&スロー』(上)、カーネマン、2014、p26~27)”
注2:
2019年6月から金が上昇を始め、新型コロナウイルスにより経済成長への不信感が出てきている事から、金を保有が推奨されだしましたが、私が資産を移した2017年~2018年にかけては、現在とは状況が違い、金の保有を推奨する動きは、極一部を除いてありませんでした。そのため、自分自身の感覚としては、かなり勇気がいる行動であったと言えます。
注3:
病的賭博 米国の診断基準(DSM-Ⅳ 1994)
A,以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される持続的で反復的な不適応的賭博行為。
(1)賭博にとらわれている。(例、過去の賭博を生き生きと再体験すること、ハンディをつけることまたは次の賭けの計画を立てること、または賭博をするための金銭を得る方法を考えることにとらわれている)。
(2)興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をしたいという欲求。
(3)賭博をするのを抑える、減らす、やめるなどの努力を繰り返し、成功しなかったことがある。
(4)賭博をするのを減らしたり、またはやめたりすると落ち着かなくなる、またはいらいらする。
(5)問題から逃避する手段として、または不快な気分(例、無気力、罪悪感、不安、抑うつ)を解消する手段として賭博をする。
(6)賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を”深追いすること”)
(7)賭博へののめりこみを隠すために、家族、治療者、またはそれ以外の人に嘘をつく。
(8)賭博の資金を得るために、偽造、詐欺、窃盗、横領などの非合法的行為に手を染めたことがある。
(9)賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育または職業上の機会を危険にさらし、または失った事がある。
(10)賭博によって引き起こされた絶望的な経済状態を救うために、他人に金を出してくれるように頼る。
B,その賭博行為は、躁病エピソードではうまく説明されない。
(引用:田辺等『ギャンブル依存症』 NHK出版,2002)
参考文献:
『ファスト&スロー』(上、下)/ダニエル・カーネマン著 村井章子訳 早川書房,2014
『実践 行動経済学』/リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン著 遠藤真美訳 日経BP,2009
『ギャンブル依存症』/田中等著 NHK出版,2002
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