例1:
長年来院している患者さんの中に、政治の話が好きな方がいる。特に年配の患者さんに、その傾向が強いのだが、ある患者さんが、消費税増税を批判するような話をしていた。
その時に、“日銀が毎年60兆もお金を創って撒いているのに、2%増税しても2兆円しか税収が増えないのに、なぜ消費税増税にこだわるんですかね?”
と、返事をすると、患者さんが眠り込んでしまった。
例2:
長年の付き合いがある患者さんに、“先生は仮想通貨ってどう思う?”と聞かれ、
“お金を創る人(注:通貨発行者)がいる通貨は、僕は買わないですね。創った人が得をするようにできていますから。最近、中央銀行がお金を大量に創って撒いているじゃないですか。銀行券の価値が下がると思っているから、金を買っています。金は1970年の40倍以上になってますからね。”と返すと、別の話に逸らすか、ピタりと話が止まり、眠り込んでしまった。
例3:
“リーマンショックの時に、FRB(米国中央銀行)が国内外問わず16兆ドルの資金注入をした。”という話を患者さんとの会話でしたところ、眠り込んでしまった患者さんがいた。(筆者注:この話自体は、次回解説を致します。)
例4:
友人達との会話でも、IdekoやNISA口座の話題から資産運用の話になる事がある。
“Idekoで何積み立てている?”と聞かれ、“Idekoはやってないよ。紙のお金は信用できないから、金を買っているよ。”と言うと、やはり周囲が黙りこんでしまう。
例5:
やはり友人との電話で、信用創造と金を買っている話をしたら、酒に強い友人が、一杯しか飲んでいないのに酔いが回ってしまい、電話を切ってしまった。
例6:
行きつけバーでの出来事。私の隣に50代の大手広告代理店の男性と、60代の高級婦人服店のマネージャーの女性がいた。仮想通貨の話から、資産運用の話になり、男性が、“アマゾンの株買っちゃった。”と酔っ払いながら、スマホの購入履歴を見せてきた。隣の女性は、“私は株なんかやらない、定期預金にしている。”と言う。私の運用も聞かれたので、“僕は金を買ってます。”と言うと、この時もピタりと話が止まってしまい、男性は“酔いがまわった”と言い、会計をしてお店を出て行ってしまった。
・お金とは何か?
・誰がどのようにしてつくっているのか?
■ 信用創造
始めに一つお断りをしておかなければなりませんが、このような話を“陰謀論”と考える方も多いと考えています。
“信憑性の問題”に陥ってしまうと、その先の研究に進めないという問題が出てくるので、なるべく、権威ある経済学の古典や中央銀行のウェブサイトなどから引用をしています。
そのため、書き方が難しくなってしまい、わかりやすさを犠牲にしている部分がありますが、ご理解頂ければと思います。
では、本題に入りたいと思います。
紙のお金の起源は、中世に遡ります。(注:諸説あり、バビロニアの時代から行われていたという説もあります。)
その時代、欧州には金匠職人が居り、金(Gold)を預かる時に預かり証を発行していました。
常識的に考えれば、金の総量の額と預かり証の額は同じでなければいけません。しかし、預かっている金を取りに来る人は、約1割しかいません。金の預かり証は、諸説がありますが、実際に預かっている金よりも10倍程度発行したという説もあります。
この実際に預かっている金よりも多く発行された、金の預かり証が、現在私たちが使っている“紙幣”の起源です。
1776年に出版された、経済学の原典である、アダム・スミスの『国富論』にも信用創造について触れている個所があります。
“これらの不便(筆者注:金貨、銀貨などの貨幣が各国により出来が違ったり、含まれている金・銀の量にばらつきがあり、為替相場が安定しなかった経緯が数章に渡り説明されています。)を補うため、1609年に市当局の保証のもとに一銀行(筆者注:アムステルダム銀行)が設立された。
この銀行は、外国の鋳貨も自国の磨滅減量した鋳貨もともに、同国の法定標準良貨を基準にした実質価値で受け入れ、そこから鋳造費および管理上必要な経費を支弁するに足る費用だけを控除することにした。このわずかな控除の後に残る価値にたいし、同銀行では帳簿上で一つの信用を与えた。
(中略)
この信用は銀行貨幣(バンク・マネー)と呼ばれ、造幣局の法定純分標準(筆者注:純分とは金貨、銀貨に含まれている金や銀の量)に厳密に従って貨幣を代表したので、真の価値はつねに同一不変であり、流通している貨幣よりも実質的には大きな価値を有した。
(中略)
鋳貨からなるこの預金、すなわち、同銀行が鋳貨で払い戻す義務のあるこの預金が、同銀行の最初の資本、つまり、いわゆる銀行貨幣によって代表されるものの全価値を構成していた。現在では、この預金は同銀行の資本のごく小部分を構成しているにすぎない、と考えられている。地金取引を容易にするために、同銀行は、このところ多年にわたって、金・銀地金の預金に対して、帳簿上で信用を与えることを実行してきたのである。
(中略)
銀行信用の所有者と受取証書の所持人とは、同銀行にたいする二種類の債権者である。
(引用『国富論 Ⅱ』 アダム・スミス著 大河内一男監訳 中公文庫 p163~p168)
イングランド銀行もスコットランドの諸銀行も銀行券を過剰に発行し、その後始末のために多額の出費を余儀なくされた。(引用:『国富論 Ⅰ』 アダム・スミス著 p463)
①A銀行が1億円預かっている。
→
②中央銀行(日本では日本銀行)に1億円預ける。
→
③現在の準備率は2%前後なので、50億円までお金を創造できる。
資産 | 負債
50億 | 50億
このように、複式簿記の帳簿に数字を書き込むだけで、お金を作り出す事ができます。
もし仮に、個人がこのような制度を使う事ができたら、どのようにするでしょうか?
仮に私が100万円持っていたとします。
100万円を日銀に預ける
→
5000万円のお金を創造し、2%の利回りの債券を買う。もしくは担保を取って貸す。
(日本国債は80年代には5%近く、21世紀に入っても2008年のリーマンショックまで、1.5%近い利回りがありました。現在の利回りはマイナスになっています。)
→
1年後には手持ちのお金が100万円+98万円(4900万円×2%)=198万円になります。
=現代の経済における貨幣創造=
現代の経済では、ほとんどのお金は、銀行預金の形をとる。しかし、それらの銀行預金がどのように作成されるのかはしばしば誤解されている。主要な方法は、市中銀行が貸し付けをすることによってなのだ。
銀行が貸し付けをする時には常に、銀行は、借り手の銀行口座に同額の預金を同時に作り出す。そのようにして、新しいお金を作るのだ。(以下略)
(参考:経済学を疑え!)
次に、日本銀行が帳簿上で創り出したお金で、大量の株を購入している件については、新聞、経済紙などが報じています。また、日本銀行のウェブサイトでも日々の購入額を見る事ができます。
日銀、企業の4割で大株主 イオンなど5社で「筆頭」
日本株市場で日銀の存在感が一段と高まっている。上場投資信託(ETF)を通じた保有残高は時価25兆円に達し、3月末時点で上場企業の約4割で上位10位以内の「大株主」になったもよう。うち5社では実質的な筆頭株主だ。(引用:2018/6/27 2:00日本経済新聞 電子版)
以下、日本銀行が負担している借金の推移を簡単に見てみたいと思います。
(参照:日本銀行ウェブサイト:ホーム > 金融政策 > 金融政策に関する決定事項等)
“日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。 (2001年4月13日)”
“日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。(2005年12月16日)”
“10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。(中略)
買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。(2019年1月23日)”
資産 | 負債
国債,ETF等 約400兆円 | 約400兆円
幸福否定理論の原則をもう一度思い出してみましょう。
*人間にとって最も難しい事
・自分が本当にしたいことを
・時間の余裕が十分あるうちから
・(外部の要請のよってではなく)自発的にすること
私自身は、
・帳簿上でお金を創り出す信用創造
・信用創造で、莫大な貸し付けが可能になり、借金をすることで、絶えず締め切りに追われる事になり、能力が発揮しやすくなる
の二点が、資本主義の本質だと考えています。
欧米だけでなく、日本も、金融が非常に進んでおり、江戸時代から金や米の預かり証を現物保管量より多く発行する、信用創造が行われていました。
■ 参考文献
『国富論』 / アダム・スミス著
『公共貨幣』 / 山口薫著
『虚構の終焉』 / リチャード・ヴェルナー著
『富国と強兵』/ 中野剛志著
『国債の歴史』 / 富田 俊基著
『江戸の貨幣物語』 / 三上隆三著
『大坂堂島米市場』 /高槻 泰郎著
『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ』 / 宋 鴻兵(ソンホンビン)著(注:原題「通貨戦争」)
『通貨戦争』 / 宋 鴻兵著(注:原題「通貨戦争 Ⅱ」)
『私が総理大臣ならこうする』 /大西つねき著
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