「お金・相場」に関する幸福否定 4:複利

* 用語説明 *

幸福否定理論:心理療法家の笠原敏雄先生が提唱。心因性症状は、自らの幸福や進歩を否定するためにつくられるという説。娯楽は難なくできるのに、自らの成長を伴う勉強や創造活動に取り組もうとすると、眠気、他の事をやりたくなる、だるさ、その他心因性症状が出現して進歩を妨げる。このような仕組みが特定の人ではなく人類にあまねく存在するという。

抵抗:幸福否定理論で使う”抵抗”は通常の嫌な事に対する”抵抗”ではなく、許容範囲を超える幸福、自らの成長・進歩に対する抵抗という意味で使われている。

反応:抵抗に直面した時に出現する一過性の症状。例えば勉強しようとすると眠くなる、頭痛がする、など。

■ 複利の重要性を認識できないのは、症状ではないか?

第2回、第3回は、「お金が創られる仕組み」を大多数の人が幸福否定理論で言う抵抗により認識できないのではないか?という推測について書きました。今回は、複利と、幸福否定理論で言う抵抗について書いてみたいと思います。

複利についても同様に、幸福否定理論で言う抵抗が働いており、正確に認識する事ができないのではないか?と考えています。つまり、脳の機能の問題として認識できないのではなく、多くの割合の人に当てはまる心因性症状として、捉えているという事になります。

■ 心理療法内での経験・・・金銭問題を抱えているクライアント

複利については、心理療法の中で数名扱った事が扱った経験があります。

・クレジットカードの利子の返済を続け、元金が減らない
・住宅ローンの返済に追われている例
・金融関係の仕事に就きながら、複利がわかっていない
・共産圏から来た留学生のクライアントに資本主義、利子、複利を説明

などが具体的な例になります。

まず先に、日常生活に対する幸福否定から、お金の問題が発生している例について考えてみたいと思います。

”浪費”や“借金”という日常生活に問題があるクライアントに関しては、お金に対する認識の問題を探る前に、

・自分を大切にできない
・借金がないと働けない(余裕がある生活、平穏な生活ができない)
・「幸せな家庭」に抵抗がある(借金を家庭を壊す手段として使っている)

などの問題がないかどうかを探り、改善を促します。

その後、より詳しく調べるために、心理療法中に下の図を使って複利の説明をしたり、場合によっては電卓を使って複利計算をしてもらいます。

複利図

通貨発行の仕組みの説明と違い、“露骨に嫌がる”、または“話を逸らす”といった反応は見られませんでした。しかし、次の回に複利について説明した事を再度聞いてみると、忘れてしまっている事が多いのです。

具体例としては、以下のような質問と回答になります。

Q:「前回の心理療法で、お金を借りる時に理解していないといけない重要な事の説明をしたけど、内容を覚えていますか?
A:「・・・・・思い出せません」
もしくは、「・・・利子ですか?利息ですか?どっちだっけ?」など。

このように、こちらから見ると、症状として重要度が認識できていないように見うけられる場面が何回かありました。信じられないという読者の方もいるかもしれませんが、利子や利息を理解していないクライアントもいます。但し、利子、利息の場合は、説明すると理解する事も多いので、そもそもの教育がされていないという事もあります。

対して、複利に関しては、教育の問題というよりは、クライアントに説明しても、重要度を認識する事が難しいため、“抵抗が強い”という印象があります。

また、ローンに関しては、現在2%前後の利子の銀行ローンなら、複利の知識がなくても、金額が大きくなければ、さほど大きな問題はありません。しかし、カードローンに関しては、利子の返済を続け、元金が減らない状態を何年も続けている方もいます。

当初はいわゆる“浪費”、”借金”の問題を抱えているクライアントが、”散財”する状態を改善させれば良いと考えていました。

しかし、「お金」に関して調べるにつれ、複利が一部の人に限った問題ではなく、数千年に渡って聖書やコーランの中でも警告されている、非常に根深い問題だという事がわかってきました。

そのため、特にお金の問題が無いクライアント(仕事をしており、ある程度の貯蓄ができている方)や友人数名に協力してもらい、複利にが対してどのような認識を持っているか?を調べたところ、やはり、ほとんどが重要性を認識していない事がわかってきました。

尚、言い訳がましくなってしまいますが、計画していた調査ではないため、綿密な社会科学の実験データとしては、不十分な点が多くあります。

副産物的に気が付いた事である事であるという事と、「お金に関する抵抗」の全体像を把握する事を優先しているため、複利に対して、その程度抵抗が働いているか?という疑問を深堀りする事はしていませんが、かなり重要度の高い問題であると考えています。

■ 金銭的な問題がないクライアントの簡単な調査例

まず、複利について、協力者の方に説明をします。

具体的には、

=調査目的=

複利に関する理解の重要性をクライアントに実際の値を用いて説明し、質問前後で、理解の重要性に対する意識の変化があるかどうかを調べる。

=方法=

事前説明

・複利の説明を、上の図の3%の部分を見せ、説明を行う。複利は雪だるま式に増えていくという事をを回答者が理解するのを確認する。

・雪だるま式に増える指数関数の計算を感覚的に当てるのは難しいため、”ほとんどの人が大幅に外れる”、”基本的に調べなければわからない事なので、回答が外れるのは恥ずかしい事ではない。”という事を伝える。

・”複利の認識が難しい”という事を認識する事が、人生において役に立つ。それを伝える事が調査の目的、という事を伝える。

=質問内容=

①〇%の利回りがあった場合、100万円が10年、30年で、それぞれ、どれくらいの金額になるか?を(計算ではなく)感覚的に答えてください。

という質問を、5%、10%、30%、100%で行う。

②自分が資産運用のプロに100万円を預けた場合、1年でどれくらい増えれば満足か?

という方法で、10名弱の方に簡易的な調査を行いました。

当初は、簡単に答えが得られると思ったのですが、以下ような例が続出したため、難航しました。

・いざ始めてみると、なかなか回答してもらえないこと
(イメージが湧かずに、感覚的な数字が出てこないため、わからない、書けない、興味がない、など。回答者が戸惑った状態になってしまったり、機嫌が悪くなってしまう事もある。)

・単利を下回る回答が出てきてしまう事があること。
(例:100万円が5%の利回りで10年後に140万円、など)

・明らかにおかしい数字が出る事
(例:30%、100%の利回り30年後の回答が僅差の数字になってしまう、など)

そのような中で、上記のような状態にはならなかった例が以下の回答になります。

・金利10%の利回りがあった場合、100万円が30年間でどれくらいの金額になるか?

という問いは、10倍以上になるという回答はほとんど返ってきません。実際は、約17倍になるのですが、5~6倍くらいまでの回答が多く、中には単利の3倍を下回ってしまう回答もありました。

また、

・自分が資産運用のプロに100万円を預けた場合、1年でどれくらい増えれば満足か?

という質問については、驚くべき事に、会計士、税理士などの職業の人や、経営者でも、平気で“2倍”と答える人がいます。

ここ最近のフォーブス誌のランキングでは、日本ではファーストリーディングの社長・柳井正氏とソフトバンク会長の孫正義氏が2兆円~3兆円の間の資産を保有し、トップを争っています。

世界では、アマゾン・ドット・コムのCEOであるジェフ・ベソスが2019年では、約14兆円でトップになりますが、100万円が2倍になる運用を約23年続ければ抜いてしまう事になります。(注:税金は考慮せず)

資産運用を行うヘッジファンドでは、平均10%以上の利回りを長年に渡って出していれば、非常に高く評価されます。しかし、上記の質問をした結果、20%以下の数字を答えた人は一人もいませんでした。

調査のやり方は、より洗礼させる必要がありますが、ほとんどの回答者において、

・複利の知識が重要だという事を認識していない
・調査後も、複利の知識が重要だという認識には至らない

という、共通の結果を観察する事ができました。

例外的に、調査に協力してくれた、Aさんが、CFP®認定者(筆者注:FPの民間資格)という事もあり、ご自身の知人を中心にアンケートをとって送ってくれました。やはり、予想以上に回答を拒否されたため、驚きがあり、自身の意識にも変化があったという事でした。<(注1)

野球のバッターは3割打てれば一流という事は、多くの人が知っています。また、テレビの視聴率は20%を超えれば大成功という事を知っている人も多いでしょう。それに比べ、実生活に大きく関係する利回りの知識が、一般化されないという事自体が、非常に奇妙な現象だと言えるのではないでしょうか?

このような経験により、複利に関しては、一部の人が抵抗により認識できないのではなく、抵抗が強い人が相当数いるのではないか?

と考えるようになりました。

■ 抵抗の原因についての推察

これまで「複利の重要性を認識できないのは、抵抗があるからではないか?」という推測を、自分の経験をもとに書きましたが、どのような原因が考えられるでしょうか?

1、抵抗ではなく、教育がなされていない
2、複利に関する抵抗は「お金」に関係する抵抗が原因か、指数関数的増加が認識できないだけなのか?

現在のところ、上記の1、2の検証の必要性を考えていますが、1の「教育がなされていない」事が複利の重要度を認識していない原因という事は、除外しても良さそうです。

なぜなら、「教育がなされていない」という事自体が非常に不自然という事になってしまうので、それ自体が抵抗の結果という事になってしまうからです。

また、2の「複利に関する抵抗は”お金”に関係する抵抗が原因か、指数関数的増加が認識できないだけなのか?」という側面についても考えてみました。

まず、”複利の重要性が認識できないのは、お金に関する抵抗か?”を考える前に、指数関数的増加については、暗算で概数を把握する事はできないという事を考慮しないといけません。計算方法を知らない限り、どのくらいの値になるのかイメージが湧かないという事自体は、心理的な抵抗ではありません。

(指数関数グラフ:出所 具体例で学ぶ数学)

そのため、指数関数的な増加を伴う社会的な事柄を集め、一般の方々の認識の差(どの程度、危険性を認識しているか?)を考察してみる事にしました。

社会生活で指数関数的増加を伴う事柄はあまりないのですが、

お金の問題
・資産運用の複利
・住宅ローンなどの法的な問題がない借金の複利
・消費者金融などの高金利
・カードローンのリボルビング払い
・ねずみ講

その他
・感染症の患者数(最近では新型コロナウイルス)

*注:人口増加については、原理的には指数関数的な増加をするが、社会の変化に伴い、増加が鈍化したり、減少に転じたりという現象がみられるため除外。

などを挙げる事ができます。

消費者金融、リボルビング払い、ねずみ講、感染症などに関しては、社会的問題が出現した時に、対応が遅れる傾向があります。恐らく、”専門家が大きな問題に発展する”という事を指摘しても、行政や一般人が指数関数的に増加する問題であるという事を、直ちに理解しない事が原因だと推測します。しかし、これらに関しては、危険性を一度認識すると、啓蒙活動や教育が繰り返され、法的規制も行われています。

お金の問題に関しては、15%以上の高金利に関する複利に対しては、広く啓蒙活動や法的な対応(注2)が行われています。

対して、資産運用やローンでもっとも実生活で使われる、約2%~10%くらいの範囲の複利に対しては、啓蒙活動や教育(注3)がほとんど行われていないような印象があります。

この、啓蒙活動、教育、法的規制が行われているか?という点が、”幸福否定理論で言う抵抗が潜んでいるか?”という問題を判断する材料になると考えています。

1970年代~80年代の金利が高い時代にマイホームを購入した世代は、多額の利子を支払っています。5000万円の家を購入するために、1億円以上の返済をした方も多いのではないかと思います。

指数関数的な増加を暗算で行うのが難しいため、具体的なイメージをするのが難しいという事は理解できます。しかし、計算が難しければ、知識としての教育がより重要になってくるのですが、生活の半分以上の時間を、お金を稼ぐ事に費やすにも関わらず、複利の知識が一般化しないという事象は、不自然な印象があります。

以上をまとめると、

・指数関数的な増加の把握は、お金の問題か否かに限らず難しいが、啓蒙活動、法的制限、教育などで社会的対策がなされている。

例:消費者金融などの高金利、カードローンのリボルビング払い、ねずみ講
感染症、など。

対して、

・通常のローン(身近な所では住宅ローンなど)の複利、資産運用の利回りに関しては、啓蒙活動、教育などがほとんど行われていない事自体が不自然。幸福否定理論で言う抵抗が潜んでいるのではないか?と推測できる。

という事になります。

なぜ、複利、資産運用の利回りに対して正確な知識を持つことに抵抗がある人が多いのかはわかりませんが、どのような状態を生み出すかを考えてみると、

・(恐らく無意識で)経済的余裕を持つ状態を主体的に避けている

という事が言えると思います。

その背景として、

・主体性を持つ事に関する抵抗
能力面・・・金銭的余裕がないほうが、能力を発揮しやすい
人格面・・・自分の頭で考えて行動し、責任をとる。自己の成長を促す事への抵抗。

・公平性への集団的な抵抗
人類史を眺めても、公平な世の中であったことはないが、少しずつ改善している。

などの要因が関係しているのではないか?と推測しています。
以上が、”複利の知識が浸透しないのは、大多数の人に、幸福否定理論で言う抵抗が働いているのではないか?”という推論になりますが、さらに別の角度から検証するために、次回は相場に関する抵抗について書いてみたいと思います。

注1:
関心を持った知人(調査例、回答者Aさん)が、周囲にアンケートを行った結果を送ってくださったので、掲載します。

・質問の仕方
・周囲にいる人のタイプ(職種、お金の話をする文化があるか?など)

で結果が変わってしまうため、調査計画が非常に難しいという事がわかります。

筆者は、”複利は感覚で判断すると、大幅に値がずれる”という事を経験してもらった上で、質問前後で認識の変化があったかどうか?を調べました。対して、Aさんの調査は、”感覚のずれがどの程度か?”という点に焦点があります。

但し、
・複利の知識がない。または、重要だという事を認識していない
・調査後も、複利の知識が重要だという認識には至らない
という点については、同様の結果が得られています。

=複利アンケートの概要=

・中学1年生男子
1回目
事前に単利と複利を説明、回答シートを用意し、計算せず感覚で答えるように注意を添えて、記入式で回答させたが、単利の金額を記入するなど、前提条件を理解せずに回答。
2回目
もう一度単利と複利を説明、再び回答シートを用意し、回答するように指示したが、長男は計算してしまい、わからなくなる。

・主婦 40代
同じく回答シートを準備、今度は予め単利の数値を記載した上で、複利はどれくらいになるかを聞いたが、前提条件は理解したという事だが、数値を感覚で回答する事が出来ないという事と、利息という言葉を聞いただけで思考が止まってしまうという事で回答できず。

・女性会社員 40代
回答シートを準備、クイズ的にアプローチする事とした。最初に単利と複利の説明、同じく単利の場合の数値を記載したシートを元に再度説明、記入式で回答を求める。

複利計算を単利数値に、単年の利回りを掛けた数値で回答しようとしたので、年利回り3%の場合の具体例で再度説明。

やはり、「感覚で数値を出せない」と言いはじめ、「唐突に何を聞かれたのかと疑念が生じた」という不満を述べた。自身の知識のなさを測られている気がするので、嫌な感じがするという事で回答できず。

注2:
現在の法律では、

元本の金額が10万円未満・・・年20%
元本の金額が10万円以上から100万円未満・・・ 年18%
元本の金額が100万円以上・・・ 年15%

が上限金利となっています。

注3:
具体的な教育例を挙げてみます。『アメリカの高校生が読んでいる資産運用の教科書』(山岡道男・淺野忠克著 2008年)という本があります。その中に、

・22歳から65歳まで毎年2000ドル(約22万円)を年8%の複利で貯蓄すると、65さいのときには70万ドル(約7700万円)を超えている。

・18歳のときにタバコを吸わないで、毎日2ドル(約220円)貯蓄することに決めた。67歳の時点では、貯蓄額は30万ドル(約3300万円)になっている。(筆者注:同様に8%の複利)

(引用:p15~16)などの例え話が出てきます。

また、

・72を金利(%)で割れば、2倍になるまでのおおよその年数がわかる。
・114を金利で割れば、3倍になるまでのおおよその年数がわかる。
・144を金利で割れば、4倍になるまでのおおよその年数がわかる。

(参考:同書 P20~21)

という概算の計算方法も載っています。

このような知識を暗記していなくても、教育の中で繰り返し触れる機会があれば、”複利の危険性に気付かなかった”という事にはならないと思います。

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